今年も世界中のサイクリストが最も注目するであろうレースが終わりました。
イギリスによって制圧されてしまったツール・ド・フランス…、素人目線で分析していきたいと思います。
まずはカンチェラーラの復活から。
レディオシャックに移籍後、不調(というか、機材との相性が合わなかった?)だったカンチェラーラですが、ようやく人外っぷりを取り戻しました。プロローグで他を圧倒する走り…。世界中の人々を熱狂させるTTスペシャリストが未だ健在であることを示しました。これはロンドンオリンピックに向けて、幸先の良いスタートと言えるでしょう。
そしてユキヤの活躍。
アシストという括りの選手ですが、チームの中では非常に重要な役割を持つ選手になったと考えられます。その日のコンディションや脚質の向き不向きなどもあるため、言い切ってしまうことは難しいですが、他のチームに移籍しても重宝される強力なアシスト選手となったと言えるでしょう。今年の幸也のリザルトから勝手に判断するに、今後突発的なトラブルが無く、彼のモチベーションが続くのであれば、3年以内にステージ優勝が現実的となるように思います。
最終的には幸也をエースとしたオールジャパンチームがツール・ド・フランスに出場することを願いますが、もし総合を狙うのであれば、30位前後までは行けるんじゃないかな?と一人で予想してニヤニヤしていますw。
では、本題に入りましょう。
ウィギンスの話です。
自分は、過去にイギリスに留学していたこともあり、大変なイギリス贔屓です。ボードマン、オブリーはもちろん、ミラー、ウィギンス、カベンディッシュなどはお気に入りの選手です。そのお気に入りの選手達が所属するSKYによる完璧なレース運び…。非常に興味深く見ていました。
既にTwitterでは呟いていたのですが、ウィギンスとSKYはツール・ド・フランスに今までとは全く違う新しいスタイルを持ち込んだと考えています。彼が圧倒的に速かったのはもちろんですが、今回の圧勝の影にはその新しいメソッドがあるのではないか…と。
シクロワイアードの記事にもありましたが、ウィギンスが非常に興味深いコメントを残しています。(以下、シクロワイアードから引用)
”「ツールは今もっと人間的になったんだ。もし観客たちが山岳で220kmの一人逃げを見たかったとしても、それはもはや現実的じゃないんだ。どんなに素晴らしく、どんなに魔法のようなものでも。皆が見た90年の(リシャール・)ヴィランクのことを覚えている。でも多分このスポーツは変わったんだ。
僕らが集団の前で450ワット(仕事量)で逃げているときに誰かがアタックスしたとする。するとミック(マイケル・)ロジャースが言うんだ。『放っておけ、もつわけない』と。誰かが500ワットで20分上りを逃げ続けるなら、それは何リットルか余計に血液が必要だってことだ。それが現実だ。本当に。
『このスポーツではほんの数%の違いが差を生み出す』というのがチームスカイでの我々のフィロソフィーだ。初めは笑いを買った、僕らが始めた”ウォーミングダウン”(レース後にローラー台でクールダウンすること)のようにね」。”
パワートレーニングを行なっている人はすぐに理解出来るでしょう。解らない人の為に解りやすく説明するのであれば、非常にドライに人間を乾電池として見ている。と説明するのが良いでしょうか?
人間は誰しも、体内に保持することが出来るエネルギー量、基礎代謝量、筋肉の効率などによって、その活動限界を規定されてしまっています。今まで、この基本的な理論は根性論で無視されてきましたが、一切のそういった精神的な面を廃止してツール・ド・フランスを制覇したのがウィギンスとチームSKYだと言えるでしょう。選手のエネルギー保持量は決まっており、アタックをかけたとしても最終的にそのステージを走るのに必要な時間は変わらない、もしくは悪化するはず。それならば最も効率良く、最も短時間でそのステージを走り切ることを考えれば良い。ということです。つまり、今までタイムトライアルの場のみで用いられていた思考を合計3000km以上の道のり、20ステージ全てにおいて実践したと考えられます。つまり、ウィギンスとチームSKYは3000km以上のタイムトライアルを走ったと言っても良いのです。
これはセンセーショナルなことです。今までの戦い方が全て変わってしまいます。
ハッキリ言ってしまうと、今後のツール・ド・フランスで同じような走り方を採用するチームがある場合、総合争いに関しては見ていても全く面白くないレースとなるでしょう。
勝つべき人間が勝つ。
その選手が好きな人にとっては嬉しいレースとなりますが、そうでは無い人にとっては退屈なものになるに違いありません。
が、そういったレースが実際に行われるようになるまで、まだ数年かかってくると思われます。何故ならば、その為に必要な選手のデータを集める為に途轍もないノウハウと時間がかかると考えられるからです。
ちなみに、僕は昨年の春辺りにこの走り方に気がついていました。2009年か2010年かハッキリとは覚えていないのですが、山岳ステージでウィギンスが一見無意味に集団から飛び出し、アシストと2人で淡々と山を登っていたシーンを覚えているでしょうか?あの時、ダンシングは一切せず、シッティングで黙々と登る姿に僕は違和感を覚えました。
通常、アタックというのは他の選手に望まないスピードアップをさせることで、自分の体力と共に相手の体力を削っていく作業です。つまり、加速する際は一気に加速し、相手から見えなくなる距離まで死に物狂いで走るわけです。しかし、ウィギンスはアシストと2人、淡々と走っていたのです。全く苦しそうに見えませんでした。当時は無意味な飛び出しだなぁ…で終わったのですが、この謎はウィギンスが使用している、ある機材を使ったことで解けました。
そうです。オーシンメトリックです。
オーシンメトリックはどう考えても通常のレース向けの機材ではありません。繰り返されるアタックに対応する急な速度変化には全く向いていないと言っていいでしょう。一定の出力で淡々と走る時に最も効率が良くなる楕円ギアです。
つまり、ウィギンスはアタックに対応する気が初めから全く無く、ステージ優勝も狙っていなかったと言えます。ステージ優勝を狙うカベンディッシュは当然使用していない機材です。
机上の空論としては非常に解りやすく、説明も簡単な方法ですが、実際に実行するのは相当大変だったと考えられます。
通常、アタックというのは他の選手に望まないスピードアップをさせることで、自分の体力と共に相手の体力を削っていく作業です。つまり、加速する際は一気に加速し、相手から見えなくなる距離まで死に物狂いで走るわけです。しかし、ウィギンスはアシストと2人、淡々と走っていたのです。全く苦しそうに見えませんでした。当時は無意味な飛び出しだなぁ…で終わったのですが、この謎はウィギンスが使用している、ある機材を使ったことで解けました。
そうです。オーシンメトリックです。
オーシンメトリックはどう考えても通常のレース向けの機材ではありません。繰り返されるアタックに対応する急な速度変化には全く向いていないと言っていいでしょう。一定の出力で淡々と走る時に最も効率が良くなる楕円ギアです。
つまり、ウィギンスはアタックに対応する気が初めから全く無く、ステージ優勝も狙っていなかったと言えます。ステージ優勝を狙うカベンディッシュは当然使用していない機材です。
机上の空論としては非常に解りやすく、説明も簡単な方法ですが、実際に実行するのは相当大変だったと考えられます。
加えて、個人的な予想ですが、イギリスはピークコントロールに対する何か新しいメソッドを発見したように思います。自分は競技者としてピークコントロールを行ったことが無い為ハッキリとは解りませんが、今年のウィギンスは好調な状態が継続している期間が非常に長いと感じられます。ツール・ド・フランスとロンドンオリンピックという2つの目標に向けて確実にピークを合わせる方法があるのでしょう。
誤解を招かないように言っておきますが、こういったウィギンスのような走り方は彼が最初ではありません。僕が記憶している限り、ランス・アームストロングもツール3連覇辺りから導入していたのではないでしょうか?ランス・アームストロングはもっと感情的な側面がありましたが、ウィギンスは徹底的に感情を廃したと思います。ウィギンスが非常に記憶力の良い(頭の良い)選手だという話もあるので(ソースがTumblrにあるはずなのに何故か見つからないorz)そういうのもあるんだなぁ…とw。
そういった事を踏まえると、最終日のカベンディッシュの為のトレインは非常に理にかなっていると思います。@hentaikharaさんのツイートを借りるのであれば、”元アルカンシェルのTTスペシャリスト(ロジャース)→マイヨジョーヌを手に入れたTTスペシャリスト(ウィギンス)→ロードナショナルチャンピオンでTTナショナルチャンピオン5連覇(ボアッソンハーゲン)→スプリントでアルカンシェル(カヴェンディッシュ)”と勝つための最良の手段を取っただけですね(^_^;)
そういった事を踏まえると、最終日のカベンディッシュの為のトレインは非常に理にかなっていると思います。@hentaikharaさんのツイートを借りるのであれば、”元アルカンシェルのTTスペシャリスト(ロジャース)→マイヨジョーヌを手に入れたTTスペシャリスト(ウィギンス)→ロードナショナルチャンピオンでTTナショナルチャンピオン5連覇(ボアッソンハーゲン)→スプリントでアルカンシェル(カヴェンディッシュ)”と勝つための最良の手段を取っただけですね(^_^;)
こういったチームSKYの躍進はウィギンスの強さはもちろん、豊富な資金力にも支えられているのでしょう。フルームという最強のライバルがチームに居るという状況は本当に大変だったでしょう。僕がフルームなら今後のことは無視して勝ちを狙って走りますw。彼の性格やSKY所属以前の恵まれない環境を考えると何となく解らないことも無いですが、最終的にはお金だと思いますw。
フランク・シュレックのドーピング陽性など、まだまだ触れたい話は沢山あるのですが今日はこれくらいにしておきましょう。
はじめまして。
返信削除> 3000km以上のタイムトライアル
「レース展開」がある競技を観るたび「TTみたいに走れば速い選手が必ず勝つんじゃないの?」と常々思ってました。
「展開」があるとすれば、相手を風よけに使うとか使われないようにするとか、ライン取り争いとか、離されると精神的にガックリ来ちゃうような未熟な相手を攻撃するとか、くらいかなと。でも、レースに出ない自分にはわからない何かがきっとあるんだろうと、何となく納得できないでいました。
やっぱりTT戦略が速いのでしょうか?もちろん最適なペース配分を導き出すのは簡単ではないでしょうけども。
# 山岳上りでのアシストは、風よけにもライン取りにも貢献しそうにないのに、どうアシストになるのかよくわかりません。
>>やまねさん
削除はじめまして。コメントありがとうございます。
自分はレース活動を行なっているわけでは無いので間違っているかもしれませんが、次のように考えています。
まず、TT的な走り方のほうが速いですが、何らかのアクシデント(落車、機材トラブルなど)があった時に大幅に計画が狂ってしまいます。酷い場合にはリタイアに追い込まれます。その為、周りに合わせて走ることも重要となります。
さらに、”最適なペース配分”というのの算出が天文学的に難しいのではないでしょうか?パワートレーニングをやっている人はFTPという単語を使って会話をしていますが、正確に算出しようと思うと非常に複雑なテストが必要となります。(多くのパワートレーニング愛好家は概算しているに過ぎません)
そして、今回のチームSKYの戦略で特筆すべき事項は”敵の戦闘力を可視化して戦った”ことにあると思います。ドラゴンボールのフリーザが持つスカウターじゃないですが、過去のレース結果などからライバルのパワーを推定して戦っていたのではないかな…?と思っています。この辺りの考え方は20年くらい経つと一般にも降りてくるんですが、当分はブラックボックスと言えるでしょう。
山岳でのアシストは風よけと精神的な支えの2つの役割を持っていますね。時速20km/hも出ていれば風よけがあるだけで(10Wほど?)走行抵抗が減るはずなので、アシストがつくことでかなり楽になります。精神面ですが、”ペースの設定”と”鼓舞してくれる”という役割もあります。基本的に山で前を曳く場合、そのコースを熟知した状態でペースを組み立てていくことが殆どです。よって、エースは最も楽で速い走り方をトレースするだけで良いのです。
このアシストの役割は市民レースでも体感出来るので、もし機会があったらアシストをしてもらうかしてあげると良く解ると思います。一番簡単なのは、スタート直後にエースを集団前方まで連れて行く作業でしょうか。アシストが体力低下を無視して鬼漕ぎしても、後ろに付いている人間は意外と楽に走ることが出来るのに気がつくはずです。山では前走者とケイデンスを合わせると解るはずです。かなり楽になりますよ。