2012/01/29

ラージフランジハブを中心に手組ホイールに関して。


大層なタイトルのついた記事ですが、中身はホイール理論の記事になっています。


僕にホイールについて教えてくれたカステNRSの橋本さん、PAX Projectのキクちゃん、Kinoさんの話を聞いて自分が出した結論になります。

合っているかどうか知りません。カステ流の書き方をするならば、これが今現在の僕の考えている事になります。

プロの経験に基づいたアドバイスが欲しいなら、手組みホイールをしかるべき所にオーダーする時にその組み手に聞いてください。

まず、自転車が走っている時のホイールの状態について考えてみましょう。ホイールはリム+スポーク+ハブで出来ていて、走行中は絶えずスポークが変形している状態になります。路面からの衝撃はタイヤで吸収しながらも、加減速時やコーナリング時の捻れの殆どはスポークが変形することで吸収されています。もちろん、リムやハブも変形しているはずですが、スポークの変形量に比べれば、その変形量は非常に小さいでしょう。

ラージフランジフランジハブのメリットは、「スポーク長が短くなる」という事です。つまり、走行時に変形する部分が少なくなるという事になります。これはパワーロスを防ぎます。

副次的なメリットとして、スポーク長が短くなることで「スポークテンションが上げられる」ようにもなります。スポークテンションが上がれば、高張力で張られたスポークが遊びを減らし、変形する部分が少なくなり、パワーロスを防ぎます。

つまり、ラージフランジハブでホイールを組めば、「短いスポークをより高張力で張る事が出来る」ようになり、ホイールの剛性が上がるのです。

しかし、このメリットはあるデメリットをもたらします。

スポークにかかるテンションが増加すると、ハブとスポークが触れ合う部分に多大な負荷がかかるのです。過度にテンションが上がるとスポークが耐え切れず、スポークの引っ掛け部(曲っている所)からスポークが切れてしまいます。これが、スポークの首が飛ぶという切れ方です。

スポークの首が飛ばないようにするためにはSAPIM社製のCx-Rayなどの、より高張力に耐えるスポークを使用すれば良いのですが、スポークを強化すると今度はハブに負担がかかってしまいます。

PAXのキクちゃんによれば、ハブのフランジ部は意外と脆いようで、壊れる時は結構呆気無く壊れてしまうそうです。僕の概算では、ラージフランジにすることでハブの強度が落ちる事は無いハズですが、ラージフランジ化によって増加していくテンションが元々のハブの強度を上回ってしまった場合、ハブのフランジ部が破損します。つまり、ラージフランジハブを作る場合はノーマルフランジハブよりもハブの強度を上げる必要が出てきます。強度を上げる事は重量増を意味します。

整理すると、ラージフランジハブで手組ホイールを組むと

スポーク長が短くなる

スポークテンションが上げられる

ハブへの負担が増す

ハブ重量が増加する

ハブを軽量化したいからフランジ径を小さくしたい

でも、ラージフランジハブのホイール剛性は捨てがたい

軽くて剛性のあるラージフランジハブ無いかな→アメリカンクラシック

アメクラはフリーが…

アメクラ以外にはラージフランジ無いなぁ…→普通のハブ

やっぱラージフランジですよ!

という無限ループを繰り返す事になります。

こうなると、何処で落とし所を作るか…という話になってしまいます。

具体例を見てみましょう。

例えば、過去にこのブログでも紹介している"SUPER ENVE"と"SUPER ZIPP"、これらはどちらもアメリカンクラシックのラージフランジハブを使用しています。NRSの橋本さんが理想とするラージフランジのカーボンディープホイールが具現化されているホイールです。

このホイールは軽量なアメリカンクラシックのリアハブがあってのホイールです。アメリカンクラシックのハブは本当に硬いアルミニウムで出来ています。カステが過去にドリリングしていますが、中々大変だったようですw。フリーが二段階で噛み合う構造には不満がありますが、現時点では重量と剛性を高次元でバランスさせた、市販では唯一のラージフランジハブでしょう。

もっと重量が重くなっても良いなら、アメリカやヨーロッパにラージフランジハブを制作しているメーカーはあるのですが、アメリカンクラシックと比べると数百グラム重くなってしまいます。アメリカンクラシックの重量は本当に秀逸です。これが30g以下の重量増でクリキンのリングドライブとかDTのスターラチェットシステムになって市販されたら、バカ売れすると思います。マニアにw。メンテが楽なスターラチェットシステムが良いかな?w


一方、ノーマルフランジハブのホイールでもラージフランジハブを利用したホイール組みと似たような性能を出す方法があります。それが、カステやKinoさんが好んで行う「スポークの結線」です。

この「スポークの結線」は賛否両論あるチューニング方法です。実際、NRSの橋本さんはアンチスポーク結線派だそうです。これにはきちんと科学的な根拠があって、ホンダの研究者の方が書いた論文があるそうです。その論文によればスポーク結線の効果は無いとか…。

実はこの論文、ず~っと探してるのですが本文が見つかりません。論文の題名と書いた人は解っているのですが、中々見つからないのです(;^ω^)カステも探しているそうですが、入手したとの話は聞きません。

一応、「元」構造屋としての見解なのですが、僕は特定の方法で行われたスポーク結線は効果があると考えています。(おぉぅ…世界のHONDAに喧嘩売ってしまったのかな?w)

例えば、細い針金でスポークの交差部分を縛り、ハンダを載せていく方法。よくKinoさんがやってますね。カステもやってます。実際に結線したホイールを触った事があるのですが、明らかにホイールの剛性は上がっています。結線することで仮想スポーク長が短くなるからだと考えています。元々のスポーク長を10だとして、結線した所が8:2になる点だと考えます。そうすれば、スポーク長が10から8に短くなった事と同義になるはずです。これはつまりラージフランジハブでのホイール組みと一緒です。

個人的にはテグスやタコ糸で縛って瞬間接着剤で固定する方法ではスポーク結線の効果を最大限発揮する事は出来ないように思います。あくまでも細い針金+ハンダが最強じゃないかと。この辺りは最早ロードの分野では無くなり、競輪の世界ですね(´・ω・`)

そんな素敵な「スポーク結線」ですが、もちろんデメリットがあります。そもそもスポーク部分は自由に動く事を考えて作られているのに、スポークを固定してしまうと、そこには多大な負荷がかかります。いわば、耐震工事であって免震工事では無いのです。入ってくる力を逃がす事が出来ず、ホイールの寿命は短くなるはずです。

同時に、スポークが折れた時に猛烈に面倒な事もデメリットになりうるでしょう。ホイールをバラす時に一度結線部を取らないといけないのは地獄だと思いますw。慣れればOKという意見もありますが、慣れるまでに一体どれくらいの時間がかかるやら…。組み終わってからのテンション調整も満足に出来ないように思います。リム~結線部~ハブの2箇所のテンションが均一に上がらず、結果的にスポークに負担がかかり、ホイールの寿命が短くなるでしょう。


こういったメリットもデメリットもあるホイール組みですが、色々なホイールビルダーに話を聞いてみると、彼らが色々な理論を基にホイールを組んでいるのがよく解ります。

例えば、同じパーツを使っても提案されるスポークパターンは違ってきます。以前、あけおす友の会のSkype中にキクちゃんと橋本さんが話していたのを聞いていたのですが、それぞれがそれぞれの哲学を持ってホイールを組んでいます。誰かが言っていたのですが、ホイール組みにはBestはありません。あるのはBetterだけ。何かを求めれば何かが犠牲になります。


そういった点ではメーカーの完組ホイールは超優等生でしょう。価格、性能、デザインをトータルで考えてパソコンで設計したメーカー完組ホイールは、並みの手組みホイールでは同じ土俵に上がることすら出来ません。というか、完組ホイールのコストダウンの上手さはwwwww。

例えば、最近のメーカー完組みでドライブ側、ノンドライブ側の両方がラージフランジになっているホイールは殆ど(全く)ありませんよね?この最大の理由はコストダウンとカタログ重量でしょう。ラージフランジハブを採用すればハブ重量が増えてしまい、その重量を減らすために高価な合金を使えば、製造コストが上がり小売価格も上昇してしまいます。最早泥沼ですね。

シマノやカンパがラージフランジハブを使った完組みホイールを販売しなくなったのはこの辺りに原因があるのではないでしょうか?最近になって、価格を下げる事で重量面に多少目をつぶる事が出来るようになったのか、正確な理由は解りませんが、再度ラージフランジ化の流れも起きています。

ちなみに、スモールフランジのハブにもちゃんとしたメリットがあります。その辺りを良く理解して使い分けるのがプロのホイールビルダーの凄い所ですね。

その辺りに興味のある人はこのページなんかオススメです。基本的な事ばかりですが、基本は大事ですよ。


しかし、どんなにコンピュータでシミュレーションを繰り返しても、手組みホイールには完組みホイールが絶対に勝てないトコロがあります。

それは、乗り手の体格や使用目的、機材に合わせたホイールを組む事が出来るという事。オールラウンドな性能を持つホイールが常にユーザーにとって最良だとは限りません。手組みホイールなら、そのホイールのパラメータをビルダーと一緒に弄る事が出来るのです。同じパーツで組まれたホイールもスポークテンションを変えることでその性質は大きく変化します。ホイールビルダーとの対話が重要になってきますが、その対話は非常に楽しいと思います。

オリジナルな1台に乗ることが出来る自転車だからこそ、自分に合わせて仕立てられたホイールを選ぶのが粋なのじゃないでしょうか?


と、思わせぶりな事を書いておきながら、僕はカンパ製のホイールが好きだったりします。
G3パターンかっこいいよぉ。カップアンドコーンハブの調整が泥沼で楽しいよぉ(^ω^)ペロペロ

どうせメーカー完組みホイールを使うなら、カンパとかRolfとか手組みホイールでは作れないスポークパターンのホイールを選ぶのが良いと思うのです。やっぱ自転車は見た目命です(キリッ

ちなみに、G3パターンは泣きたくなるくらい横剛性が無いです。アクティブにダンシングしながらスプリントすると、簡単にブレーキにリムが擦ってしまいます。でも、カッコイイから許せるんですよねぇ…。

もし、現時点で自分が手組みホイールをオーダーするのであれば、次のような構成になるでしょう。

フロント
リム:ENVE
スポーク:Cx-Ray
ハブ:DT240
スポークパターン:ラジアル

リア
フロント
リム:ENVE
スポーク:Cx-Ray
ハブ:
スポークパターン:ラジアルクロス

ええ、リアハブが決まらない泥沼なう。です。

クリスキングの「音」 VS アメクラの「ラージフランジ」

実際に買うなら、性能を多少犠牲にしてクリスキングのハブを選ぶような気がします。フリーの音が独特で凄く良いんですよね。

レース用の機材として買うなら迷わずアメクラにしますけどw。

ま、その前に先立つモノが無いんですけどね><

8 件のコメント:

  1. 気になったところを少々。

    アメクラの欠点として、左のオチョコ量が大きいってのもある。剛性低下をハイフランジで補ってる感じ。俺のセンスだと、補いまくって逆にプラスになってる感じがするけど、もっとオチョコ減らして良い気がする。現行のはリムとスポークを思いやったギリギリの線なのかも。(そうなるとスズエが気になってくるよね。あそこはNJSのノリで作ってやがる)

    あとラージ化の欠点はリムのニップルカントの問題もある。普通のカントじゃラージのスポーク角に対応できないからね。だからいつもラージ専用のカント付きリムが欲しいって俺言ってるのよ(笑)
    このカント問題はハブにも言えて、そんなにスポーク飛びが気になるんやったらコニカルフランジにすりゃーえぇやんってもんで。フランジ断面をテーパーさせてハブ強度も確保やー!って思うんやけど、重量キツいかねこれ?w

    あとスターラチェットは構造としては最高なんだけど、DTハブのアッセンブリ構造はアレだよね。スクリューにすれば良いのにっていつも思う。あと純正のラチェット数が少ない。36ノッチを買わなきゃ()()

    そして結線。ラージと同じ効果という記述が非常に多い(ほぼ100%)んだけど、キーとなるのはスポーク角だと思うの。ラージと同じ効果にはならんような気がするね。例え三角形が不動だとしても、スポーク角一緒だし。ここ結構大事だと思ってるんだよねぇ俺。まぁ、全く効果が無いわけじゃないと思う。

    ちなみに結線スポークをバラすの簡単だよ。慣れも何も、ぶった切れば良いんだもん。やってみるとわかるけど、スポークとスポークの間の段差が結構あるから、ニッパぶち込んでもスポークに全然傷いかない。しかもパコって取れる。
    逆に言うと、結線ってガチ結線じゃないってこと。やっぱ時代は溶接結線ですよ(白目

    理想構成のフロントがDTなのは流石。あれのベアリングをアンギュラにしてですね、、、(それただの大径カップコーンや!というツッコミは無しで)

    こんなところっす。

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    1. 確かにスポーク角度とおちょこ量もここまで来ると無視できないよね。一つ一つのファクターを独立させて考えていくのは簡単なんだけど、複合させるとややこしくなりすぎる。

      フランジのテーパー自体はそんなに重くならんはず。加工はクソ面倒くさそうだし、リムに対して専用設計だろうからコストがなぁ…。

      スターラチェットは俺も構造はチト問題があると思う。工具無しで分解出来るのは凄いけど、あれはねぇw。ノッチ数は後から変えられるんだから良いでしょ。

      結線=ラージと一緒なのは見て解るとおりだね。キクちゃんがその辺りの論文持ってるそうな。

      結線スポークバラすの簡単かぁ…今度動画でもうpしてくれると皆喜ぶと思うw。

      フロントハブは昔のカンパハブとかを間引いても良いと思うんだけどね。ま、デュラハブでも良いけどw。そこはやっぱメンテナンス楽なほうが良いと思ったり。玉あたり調整嫌いなんだよねw。めんどいwwwww

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  3. 俺はレーシングスピードが2009年からラージハブになったから2009モデルと2011モデルを買った。
    同じようにSUPERENVEがラージハブだから買った。

    結線が仮想ラージハブというのを聞いたときから、それは横剛性に対してだけなんじゃないのかな?と前々から疑問に思ってたんだけど・・・やっぱりその仮想ラージハブだと実ラージハブの駆動効率なんかは劣るような・・・

    でもとりあえず、アメクラのリアハブ渋すぎる!!

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    1. そうだね、仮想ラージハブだとかなり駆動効率は落ちると思う。その辺りは「仮想」だから仕方が無いような…

      リアハブ渋いなら、ベアリングのシール削るのが一番手っ取り早いよな。もしくは非接触型シールのベアリングに打ちかえるかw

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  5. MyhrequalOssan2012/02/06 16:16:00

    チューブレスって言葉の響きが好きで使ってる私は完組Only

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    1. チューブレスのメリットは理解しているんですが、どうしても高圧で使っていいのかな?と思う車/バイク脳があるので、自分は手を出す気は無いです。MTBでは良いと思うんですが、ロードではなぁ…とw。でも、ちょっと興味はありますよ。ちょっとはw

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