TTバイク用として、ROTOR Q-RingsとO.SYMETRIC(オーシンメトリック)を購入し、使用してみた。
人間の足は本来、円運動を行うようには出来ておらず、クランクに力を加える事が出来ない上死点と下死点を通過する時間を短くするよう設計されたのが現在注目を集めている楕円チェーンリングだ。
当初はキワモノ扱いされていたが、最近はQ-Ringsはかなり一般的になってきているように思う。O.SYMETRICは未だにキワモノ扱いされているが、楕円チェーンリングとしては絶対にO.SYMETRICのほうが全ての点において上だと思う。
幸運?な事に自分の周りには楕円チェーンリングを使用している人が多く(計10人以上、更に複数の楕円チェーンリングを所有し使用した人は5人ほど)いるため、そういった人達のインプレッションも合わせて考察していきたい。
因みに、楕円チェーンリングを使うため、シマノコンポのバイクにSRAM REDのクランクとBBを導入した。デュラエースのクランクでも良かったが、フルクラムのカーボンクランクの踏み心地が気に入ったためREDにした。カンパクランクが使いたかったのだが、PCDの関係でO.SYMETRICが使用出来ず断念した。
ROTOR Q-Rings
最も楕円っぽくない楕円チェーンリングだと思う。
完全な線対称設計で、重くなる点も軽くなる点も2箇所づつしか無い菱形のような形になっている。
踏んでみると「グルングルン」と脈動するように回って行く。
この「グルングルン」という感覚はROTOR特有で、O.SYMETRICには存在しない。
ギアの重さが変化する事が非常に体感しやすい印象がある。
装着に難しい事を要求しない代わりに、多少変速性能が落ちているように感じた。
実際にQ-Ringsを使っている人は変速不良を訴える人が多く、自分のバイクでも最終的に満足のいく変速セッティングは出なかったが、バッチリと決まった自転車もあった(といっても1台だけだが)ため調整次第だと思っている。その自転車は真円52TのセッティングそのままでQ-Rings52Tを運用した所、バッチリとセッティングが出たらしい。
楕円度もあまりキツくなく、どんなフレームにも装着出来るため、入門用楕円チェーンリングだと考えている。
O.SYMETRIC
僕が覚えている限り、2004年くらいから一部のプロがツールドフランスで使い始めたギアだ。
常軌を逸しているような独特の形で、線対称なQ-Ringsとは違い、点対称であるのが注目点だと思う。
Q-Ringsが一人一人の踏むタイミングに目を向け、踏み込みポイントを5種類に設定出来るのとは違い、O.SYMETRICではそういった機構は一切廃されている。Q-Ringsには存在した肉抜き穴や変速ピンなども一切存在しない。
半径が最大になる場所と最小になる場所の差が大きく、一部のフレームには取り付ける事が出来ないため、注意が必要だ。
インナーリングとクランクの間に、チェーンリングを固定するボルトへCリングを嵌める事でチェーンラインを確保しているため、Carbon-Tiのチェーンリングボルトは長さが足りず使用できなかった。自分はFSAのチェーンリングボルトを使用している。
その見た目から、「変速性能が低いでしょう?」とよく聞かれるのだが、意外にも非常にセッティングが簡単で、変速性能もQ-ringsよりかなり良い。これは肉抜きをしていないため、ギア板自体の剛性が非常に高いからだと考えられる。
しかし、楕円チェーンリングを使う場合、FDの選定が難しく、自分は56、78、79のFDを試し、79デュラのFDに落ち着いた。
楕円チェーンリングはチェーンラインが上下だけでは無く、左右にも動くため、79、67などのフロントのトリム操作が不要になったシマノ製FDを使わないと非常に調整がシビアになる。
しかし、変速時にFDに強い負荷がかかるのか、105のFDはすぐに羽根が歪んでしまったため、多少高くなるが、79デュラのFDが良いと思う。
因みに、FDに関しては各メーカー全て互換性がある(というか、調整次第で何とかなる)ので、楕円チェーンリングを使用する場合、どのメーカーのコンポを使用していても、79のFDを使う事をオススメする。
肝心の使用感だが、Q-Ringsとは全く違う。Q-Ringsで感じた脈動感は無く、非常にスムーズに足が回る。これはO.SYMETRICは楕円ではなく、歪円であることが影響しているようだ。実際に走行データを比較してみると、Q-Rings使用時よりもO'symetricを使用した時のほうが巡行速度が上昇している。
あくまでも僕の例だが、TTポジションで1km維持出来る速度が40km/h強から50km/h強に上昇した。
一方、確実にデメリットもあり、パワーが向上しているのと引き換えに、脚への負担も大きい。普段150km位は普通に走ってしまうが、70kmくらいから膝の周辺の筋肉が痛みだし、100kmちょっとで完全に脚が売り切れ、走れなくなってしまった。
ゲームで例えるなら、体力の低下は激しいが速度が上がるブーストパーツだ。
本来は効率良く走る為のアイテムだが、使うと効率の良さで自分が速くなったような錯覚を受け、結果的に体力の消費が激しくなってしまう。
雑感
「楕円はクライムが速くなるか?」という質問も多く受けるが、自分が使った経験から考えると、楕円チェーンリングは一定以上のケイデンスで走行している時に、そのメリットが感じられた。自分は心肺能力があまり高くなく、重いギアを踏むクライムをするため、クライムで楕円ギアのメリットを感じた事は無い。どんな使い方をすれなメリットを感じる事が出来るか考え、TTバイクでクライムを繰り返してみたところ、過剰に重いギアを踏んで回した時、「ゾーンに入る」という言い方がピッタリな感覚があった。ゾーンに入ると、通常なら重すぎて登れないギアを楽に使う事が可能で、非常に速いペースで登ることが出来た。しかし、アフターバーナー並みの低燃費になってしまうため、実用的では無い。
上に記したように答えると確実に、「では、どのようなシチュエーションでメリットがあるか?」と聞かれるが、やはりTTなどの「一定出力(強度)で運動を続ける事が出来る」場合にしかメリットは無いと思う。楕円ギアはギアの半径が変化するため、踏むポイントが決まっている。そのため、決まったポイントでしかパワーがかからず、タテの動き(加速)が非常に苦手になってしまう。自分はスプリンターであるため、楕円装着バイクと真円装着バイクでスプリントしたところ、真円はガツンと加速するが、楕円はスルスルと最高速まで加速していく。更に、楕円はペダリングスキルの低さを補ってくれる為ケイデンスの最高値が高く、結果的に最高速も速い。実戦で使えるのは真円だろう。
もしクライムで使うのであれば、短距離のタイムトライアル的なクライムという、非常に限定されたシチュエーションでしかメリットが無いと思う。踏むポイントが2箇所しか無い楕円ギアは、筋肉が疲労した場合、踏むタイミングを変える事で使う筋肉を変える事が出来ない。真円ギアならば、どのタイミングで力を入力しても、常に同じようにリアホイールに力がかかる。楕円ギアの歴史を調べてみると、60年以上前から存在しているが、今も一般的になっていない理由はこの辺りにありそうだ。
今回、記事を書くにあたり、楕円ギアを使用している知り合いに使用感などを聞いていると、楕円ギアから真円ギアへ戻すと、タイムが向上したという人が何人かおり、自分も楕円から真円に乗り換えるとタイムが向上した。
これについては、踏むタイミングがズレると進まない楕円ギアは、人間工学的に一番出力が高くなる、3時付近にクランクが来た時にギア板の半径が最大となるよう設計してある。よって、楕円ギアを使うことで、ペダリングの矯正が可能で、ペダリング効率が上がるのではないか?という仮説を立てている。
競輪学校にあるようなペダリング分析用のトレーニングマシンを使用しないと、この仮説は検証出来ないため、将来的には協力者を募り、検証してみたいと考えている。
こんばんわ、初めましてlandscapeと申します。
返信削除最近、楕円チェーンリングに凄く興味を抱いているのですが、
O.SYMETRICの導入について少し質問があります。
私はフロントディレイラーがSHIMANO FD6700(アルテグラ)でO.SYMETRICをインストールしようと思っているのですが、やはりDURAのほうが変速のトラブルは少ないのでしょうか?
SHIMANOの互換性チャートを見ると、出来ないと明記されてるので不安なんですが。
ちなみにSTIは105で、フロントクランクはアルテグラという混在なコンポ構成です。
ご多忙かとは思いますがアドバイスを宜しくお願い致します。
landscapeさんどうもです。67アルテのFDでも問題無く動作しますが、羽根の耐久性に難があるというだけです。なので、とりあえずはそのままポン付けでいってはいかがでしょうか?
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